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大学院生の諸々日記。なるべく、のんびり。

Circuits / Chris Potter (Edition Records, 2019)

Circuits / Chris Potter

Circuits

Chris Potter (S.Sax, T.Sax, Cl, Fl, Sampler, Gt, Key, Perc)
James Francies (Key)
Eric Harland (Dr)
Linley Marthe (El.B on 3,4,5,8)

Edition Records, 2019

 

僕が大好きな、それこそオールタイムベストに挙げるぐらい好きなサックス奏者、クリス・ポッター(クリポタ)の新作。ここ5年はECMからアルバム(The Sirens, Imaginary Cities, The Dreamer is The Dream)をリリースしていたのが、今作はEditionに移籍後初のアルバム。

1971年生まれのクリポタも、気付けばもうすぐ50歳。ベテランの域に突入しながらも、演奏はナウでヤング。パワーとダークさを兼ね備えた音色+圧倒的な演奏技術に裏打ちされた無尽蔵のアイデアから、かつてはポスト・マイケル・ブレッカーの筆頭と期待を寄せられていたり。今では逆にポスト・クリス・ポッターは誰か?と議論されるような、現代ジャズにおける唯一無二の奏者です。

untitledmedley.com

クリポタのキャリアに関してはコチラの記事が詳しいので、気になったらチェックしてちょんまげ。(僕も少しお手伝いしています)(小声)

アルバムタイトルの"回路(Circuit)"をモチーフとした電気的なジャケ写から、アダム・ロジャース、クレイグ・テイボーン、フィマ・エフロン、ネイト・スミスと組んでいたChris Potter Undergroundを彷彿とさせる硬質でファンクネスな音作りになるのかな、と発売がアナウンスされた時から思っていました。

 

今作は木管楽器類、キーボード、ドラム(+数曲でベース)のやや変則的な編成。

1曲目のInvocationはソプラノサックス、テナーサックス、クラリネットバスクラリネットの多重録音による四(?)重奏。こうした木管楽器をレイヤードするスタイルはキャリア初期にConcordから出た諸作(Concentric CirclesPureなど)では多用されていましたが、近年の作品ですっかり鳴りを潜めていました。2015年リリースのImaginary Cities弦楽四重奏用のアレンジを書き下ろした経験から、こうしたオーバーダブのアイデアへの回帰に目覚めたのかもしれません。きっと。多分。知らんけど。とにかく、90年代の作品の大ファンである僕としては初っ端から「あの頃のクリポタが帰ってきた!?」と大喜び。

2曲目のHold Itからは打って変わってアンダーグラウンド的なエレクトリック・ファンク。15/8拍子の変拍子で、クリポタも爆発的な盛り上がり。3曲目のThe Nerveは重めのビートを刻みつつ、ちょっと異国情緒漂うメロディー。

1曲目と比べると別アルバムかのような曲調が続きますが、ほとんどの曲がサックス1本ではなくフルートやバスクラリネットを重ね録り=1曲目の流れを汲んでいるので違和感も特に無し。CircuitsやQueens of Brooklyn等ではバスクラエレキベース(あるいはピアノ)が同じベースラインをユニゾンする演出もありますが、これもImaginary Citiesウッドベース(ラリー・グレナディア)とエレキベース(フィマ・エフロン)のツインベースを起用した経験が影響していそう。

8曲目のExclamation、9曲目のPressed for Timeはクリポタの超絶度合いが最もよく出ていて、ただでさえアップテンポで熱量が高いのにバンド内の煽り合いが過熱し、最終的にはどうかしている領域に突入。静より動を好む人ならば、まずこの2曲を薦めたいところデス。

 

アルバムを通した気になりポイントで言えば、やはりジェイムズ・フランシーズの参加でしょうか。ここ1年で頻繁に名前を聞くようになった気がしますし、パット・メセニー(Gt)およびマーキス・ヒル(Tp)のグループで今年は既に2回も来日を果たしております。僕自身はこれまでノータッチで、フランシーズの演奏は初体験。

今までアンダーグラウンドでロジャーズ、テイボーン、エフロンが支えていたコード・ハーモニー面の役割をたった1人で担うのは結構な重荷だと想うのですが、それを物ともしない重厚なサウンドと攻めに攻めたフランシーズのプレイ、最高です。調子が良い時のクリポタは並の奏者では存在感が掻き消される(ゆえに周りが演奏をやめてしまうことも少なくない)ぐらいエグいのですが、フランシーズの食い付きは凄まじく、逆にクリポタを煽り返すほどの強かさがあります。

ここまで言及してこなかったエリック・ハーランドも同様で、あの手この手を使ってクリポタとフランシーズの演奏に呼応。一定のビートを保ちながらも基本的に同じフレーズは連続で叩かない、引き出しが無限大に多い演奏スタイルは僕がハーランドが好きな理由の一つ。スイッチが入ったクリポタと、それに容易く反応するリキッドな2人の相性はこれ以上ないぐらいに抜群。このアルバムに限って言うなら、考えられるベストのメンバーなのではないでしょうか。(ちなみにフランシーズはハーランドの紹介で参加が決まったそう)
数曲のみで参加しているベースのリンレイ・マルテ(読み方合ってる?)も目立つソロやプレイはないものの、絶対に外さない正確な音運びで曲の流れをスムーズにしているのが好印象。

 

クリポタのプレイで特徴的なことがあるとすれば、エフェクターの効果的な使用かしら。メロディー以外にもソロのここぞ!という場面で、ディレイやハーモナイザーを駆使してサウンドを際立たせています。

サックス×エフェクターといえば、もはや伝説であるマイケル・ブレッカーHeavy Metal Bebopにおけるワウオクターバーの使用でしょうか。最近ではダニー・マッキャスリンDavid Bowieの★)、ベン・ウェンデルKneebody)、クリス・ブロックSnarky Puppy)やチャド・レフコウィッツ・ブラウンエフェクターを駆使したトレンディーなプレイをしているので、もはやサックスにこうしたエフェクトを掛けるのもごく自然なこと。

飛び道具的なエフェクトを使用する際には、フランシーズとハーランドが音数を減らすことでサウンドが散逸的にならないようにしているのも好い塩梅。全員が「何でもできる屋さん」だからこそ「何をやらないべきか」が正確に把握できているというか。かつてタモリマイルス・デイビスと対談した際に、マイルスは「俺が長い音を吹くとき、後ろのメンバーは音を短く演奏する。俺が沢山の音を出すとき、後ろのメンバーはリズムを変化させる」という言葉を残していますが、そういった足し算&引き算の美学が絶え間なく、そしてシームレスに行われるのがこのCircuits Trio(勝手に命名)の魅力です。

 

いやはや、ECM離れをした一作目でこの充実感、めちゃくちゃ良いんじゃないですか。こういったバッキバキに尖ったサウンドは中々好みが分かれるところではありますが、個人的には「オーバーダブを多用したConcord時代の色彩豊かなサウンド」と「クリス・ポッター・アンダーグラウンドで培った極上のエレクトリカル・ファンク」の掛け算的なサウンドに、史上最高クラスのメンバーが組み合わさることで生まれた、まるでクリポタのキャリアを総括したような一作に感じました。グッ!

やっぱりオレたちのジャズヒーローは常に''最高''を更新し続けてくれますわね…

 

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