365日をJ棟で

サラリーマンの諸々日記。買い物、音楽、日常。

The Turn / Jerome Sabbagh (2014)

僕は大学ではジャズ研に所属していました。そこで4年間、サックスをピーヒャラピーヒャラ吹いていました。

毎年、12月にはジャズ研の定期演奏会なるものが開催されます。2年生はここで現役引退となります。かなり早い幕引きですが、部員数が非常に多いウチでは、貸出用の楽器や部室のスペース等の制限も多いため、老いぼれにはサッサと引退してもらわないと困るのです。あっ、部活の話はすればするほど長くなるので、今日はやめておきます。

で、3年生(既にOB)のときに大学の同期がアレンジしたスタンダード曲、It Could Happen To You定期演奏会で演奏することになりまして。僕は曲を演奏する際、参考にするテイクを探す→繰り返し聴く→結局ほとんど参考に出来ず本番で訳の分からん演奏をする、というサイクルを繰り返すのですが、この曲もいつもの様に検索すると…

ジェローム・サバーというテナーサックス奏者が、ピアニストのダニー・グリセットとデュオで演奏している動画を見つけました。CONNのビンテージサックスにセルマーのソロイストという、アコースティックな環境が最高に似合うセッティング。往時のスタン・ゲッツを彷彿とさせる、ちょっと掠れた、倍音が豊かで、よく響く音色。あっという間に虜になってしまいました。

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The Turn / Jerome Sabbagh

 

1. The Turn
2. Long Gone
3. Banshee
4. Ascernt
5. The Rodeo
6. Cult
7. Once Around The Park
8. Electric Sun

Jerome Sabbagh (Ts)
Ben Monder (Gt)
Joe Martin (B)
Ted Poor (Dr)
Sunnyside Record (2014)

というわけで、今回は気になるサックス奏者、ジェローム・サバーのアルバムに手を出してみました。ホームページとフランス語のwikiから経歴を拾ってきましたので、まずは簡単にジェロームの紹介を。

1973年にパリで生まれ、1995年よりNYに拠点を移す。バークリー音楽大学ではジョージ・ガゾーン、デイヴ・リーブマン等に師事。最晩年のポール・モチアン(前回紹介しました!)のグループで活動。モチアンの亡くなる2ヶ月前には、ヴィレッジ・ヴァンガードでベン・モンダーとのトリオで公演を行っている。2004年より活動しているベン・モンダー、ジョー・マーティン、テッド・プアーとのレギュラーカルテットで3枚のアルバムを発表している他、ベン・ストリート、ロドニー・グリーンとのトリオでも活動中。

なるほど。年齢的にはジョシュア・レッドマン、クリス・ポッター、エリック・アレキサンダー、シェーマス・ブレイクあたりと近いんですね。アメリカのテナーサックス奏者というのは本当に達人たちの密集地帯で、プロアマ問わず、日本では無名の凄腕プレイヤーがゴマンといます。ジェロームも経歴や作品的には立派なジャズ・エリートですが、その知名度はかなり低いように思います。

ポール・モチアン作曲のOnce Around The Parkを除き、全曲がジェロームのオリジナル。1曲目の冒頭からいきなり、おどろおどろしい雰囲気が漂う。夜な夜な行われている、怪しげな儀式を覗き見している気分に。5曲目のThe Rodeoのようにズンズン進む軽快な曲も用意されてはいますが、全編を通して「ポップさ」といったものは微塵も感じられません。どう考えても売れ線狙いじゃない。
ただ、ピアノがいないことと、浮遊感のあるギターがコードワークを支えていることから、曲の重さとは裏腹にサウンドは軽め。現代ジャズがビバップハードバップと比べて小難しいと思われがちな理由の一つに、サウンドが意味不明すぎてシンドい!というのが挙げられますが、そういった苦労は本作では少ない。同じ編成でもヨッケン・リュッカートのアルバムとか、結構スゴいよねェ…

ジェロームのサックスは柔らかさがあり、テーマはp~mfの強さで、楽器を鳴らしきることなく、テナーサックスにとって美味しい音域、美味しい音量を忠実に守っています。技術的にかなり難しいんです、こういうのは。打って変わって、ソロ中は上から下まで音域をフルで駆使しブリブリと攻めまくる部分も。Bansheeでの吹きっぷりがGOOD。マーク・ターナーやウォルター・スミス3世が好きなら、スッと受け入れられるスタイルだと思います。

マリア・シュナイダー・オーケストラの他、デヴィッド・ボウイの遺作であるにも参加しているベン・モンダーですが、コード楽器が1人なこともあり、本作を深遠なムードに導くための重要な役回りを演じています。テンションの高低差は無く、メロディーを演奏するとき以外は、黙々とコードワークに終始。聴いていると耳が吸い込まれそう。ああ、僕も謎の儀式へ誘われてしまうのか…
しかしジェローム同様、ソロパートでは弾きまくり。The TurnBansheeCultでは音を強く歪ませ、マシンガンのような高速フレーズを遠慮なく打ち込んできます。周りの3人がアコースティック的で落ち着いたサウンドであるが故に、ベンの厳つさが浮きまくっていますが、どういうわけか不自然さがない。

ベースとドラムは難しいことは一切やっておらず、拍子が迷子になったり、テンポが掴めないということも無い。この謎めいた浮遊感の中で下手な動きを加えてしまうと、世界観が崩壊してしまう恐れがありますからね。儀式中はお静かに。10年間も続いているカルテットですから、メンバーもジェロームの意図というのをしっかり理解しているのでしょう。背後から忍び寄るような不気味さを保っている2人ですが、盛り上がるシーンでは強めに演奏したり、バンド全体のダイナミクスを支配する役割を担っています。ジョー・マーティンといえばThe Remedy / Kurt Rosenwinkelにも参加しているベーシストですが、いつでも良い仕事をしてくれますね。好き。

気楽にジャズが聴きたいなぁ、というときに再生ボタンを押せるような代物ではありませんが、噛めば噛むほど味が出てくるスルメのようなアルバムです。もう既に3回通して聴いたので、ハマっちゃったのかもしれません。 ベン・モンダーのギュインギュワンなソロが聴けるという意味でも、価値のあるアルバムだと思います。

The Turn

The Turn

 
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