タワー・オブ・パワー(TOP)の来日公演を観に行った。
出会ってから13年くらい?初の生TOPである。当時は高校生、大好きだったT-SQUAREの元ギタリストである安藤正容さんがインタビューでTOPからの影響を喋っていて、やけにイカしたバンド名だと近所のブックオフに走った記憶。1枚だけ売っていた"Oakland Zone"を購入し、受験期に聴いていた。
全曲を歌えるぜってほどのファンではなく、代表曲ばかり繰り返し聴くようなレベルではあったものの、大学時代も好んで聴くバンドだった。 ジャズ研でテナーサックスを演奏していたので、TOPのカバーバンドをやるのは私的な悲願だったが、ペーペーのアマチュアではどう考えてもこのサウンドは出せるはずがない、侮辱的な演奏はしたくないというヒネた理由で結局手を付けなかった。(レタス、ソウライブ、スナーキーあたりは演ったが…)
在学中にもTOPの来日はアナウンスされたが、その際はブルーノート東京+北海道のみの公演だった。メンバーの年齢を考えるとこれが最後かもしれないな…とジリジリ後ろ髪を引かれつつも、大阪の学生にはチケット+往復交通費で3万円は非常にキツかった。2019年にも来日はしていたようだが、その頃はあまり聴いていなかったのでスルーしていた。
そうして2020年、初期メンバーかつファンク界における大レジェンド、ベーシストのロッコ・プレスティアの訃報を知る。やっぱ2015年に行くべきだったな…と強く悔やんだ。更にこれまたウルトラ・レジェンドであるドラムのデヴィッド・ガリバルディが引退するニュースが飛び込んできたり、もうバンドも解散するのかな、次の来日はないかもしれないなと思うようになった。
そこに突如舞い込んできた日本ツアーの報せ、しかも大阪公演がある!!!こんなに嬉しいことはない。チケット発売日に飛びついた。 チケット代を出すから絶対に体感してほしいと、妻(+誘いをかけた友人)を連れてビルボード大阪に足を運んだ。
とは言っても結成から56年、初期メンバーであるテナーサックスのエミリオ・カスティーヨは73歳、バリトンサックスのステファン・"ドク"・クプカは78歳(!)である。
なんぼ世界最高のファンクバンドであれど、フィジカルの衰えを考えると、演奏に多大な期待を寄せているわけではなかった。 特に屋台骨であるホーンセクションがこの状態、しかも息を使うサックスってフィジカルめちゃくちゃ大事。
付き添い無しではマトモに歩けないほどヨボヨボになりながらステージに上がるドクを見て、演奏はなんでもいい、現存する重要文化財として拝もう、そんな心構えでいようかと考えていた。
が、一音目からブッ飛んだ。目ぇ覚めた。大声出た。手拍子叩いた。いきなりフルパワーの〈Soul with a Capital "S"〉〈Oakland Stroke〉〈You Ought to Be Having Fun〉である。学生時代めちゃ聴いた、今回も予習として聴いていた40周年、50周年のライブアルバムで聴いた、あの曲たちがバカみたいにデカい・ウマい・カッコいい音でステージから奏でられている。
ホーンの統率力、パワー、あまりにも異次元。今年はスナーキー・パピーにコーリー・ウォンと、ファンキーさでは世界最先端&狂ったように精緻な演奏をするバンドの公演に足を運んだが、TOPは何段も高くブッ飛んでいた。
歩くのもままならないドクは、楽器を構えた途端に背筋がバシッと伸び、もはや身体が反射で演奏しているのではと思うぐらいにパーフェクトなタイミングでパーフェクトな音を、全くミスなく出していた。エミリオもサックスに加えてソウルフルなボーカルをこなしながら、バンドへの指示出しや観客の煽りを楽しんでいた。
在籍20年以上になるトランペットのアドルフ・アコスタ、テナーサックスのトム・ポリッツァーもいることからホーン全体が阿吽の呼吸に仕上がっていることは疑うまでもないけれど、それにしてもたった5人で出せる音ではないような…音圧、鋭さ、太さ、バランスの良さ、色気…何もかもが素晴らしい………
観客も当然私より大幅に年上、もはやエミリオやドク並のご年配ズもいたわけだけど、みんな歌い叫び踊りながら思い思いの時間を噛み締めていた。
今年3月のライブ映像。
大定番曲である〈Diggin' on James Brown〉〈Knock Yourself Out〉〈What is Hip? / Soul Power〉でのコール&レスポンスも全力で楽しみ、1時間15分のステージが幕を閉じた。(〈We Came to Play〉〈Squib Cakes〉〈Only so Much Oil in the Ground〉あたりは2ndセットで演奏されたのだとか)
今回の来日ツアーは横浜→東京3days→大阪2daysの計12公演を一週間で走り抜く。体力ありすぎだろ。30~40分のビッグバンドを週1でもバカみたいに疲れるのに。
思えば観たかったアーティストが、叶わずこの世を去ってしまうことが多い。トランペットのロイ・ハーグローブは行く予定だったフェスが中止となった翌年に急逝した。今年に入ってからも、ロバート・グラスパーの右腕だったケイシー・ベンジャミン、数日前にはスナーキー・パピーの重要メンバーだったショーン・マーティンが立て続けに若くして亡くなった。
とにかくメンバーがいなくなる前に、バンド解散前に、と思って感謝の気持ちで観に行ったタワー・オブ・パワーだったが、あまりにも凄まじいファンクサウンド、演奏力に期待を遥かに上回る衝撃と笑顔を貰い受けた。ありがたいですね、本当に。
TOPといえば、妻の親戚(叔父)が大ファンであることを知ったのは昨年。ある日、叔父さんの家に遊びに行った際に、居間に〈We Came〉〈Oil〉〈Hip〉などと書かれたブルーノート東京のセットリストが飾られていることに気付いた。
もしかしてTOPですか?と尋ねたところ、まさに2015年の来日時に家族で行っていたことが発覚。飾られていたセットリストは、終演後にデヴィッド・ガリバルディが当時小学生だった義従弟にドラムスティックと一緒に手渡ししてくれたものだそう。(えー、ヤバすぎる!)
もともと気さくで優しい叔父さんだが、TOP好きという共通点が見つかって以降グッと距離が近付いた気がする(笑)。明日の大阪最終日も観に行かれるそう。たぶん1stセットなので、一番好きな曲だという〈Knock Yourself Out〉が聴けるんじゃないかな。また会った時には2人で語り尽くして、妻と叔母さんを置いてけぼりにしていきます。