基本的に完全無線イヤホン(所謂TWS)しか使わない毎日だけれども、有線イヤホンも1本はあると心強い。7年前(!)に買ったRHAのMA750は保証期間に2度交換し、3代目もケーブルが硬くなってしまったものの未だ断線はしていない。1万円強で7年持つというのは、驚異的だと思う。
とはいえ、本当の驚異というのはこのことを言うのだろう。Amazonで気になって購入した中国メーカーKZ社の"ZAX"は、ダイナミック型1基+バランスドアーマチュア型7基という構成。要するに、片耳にスピーカーが8本入っていることになる。
10年ぐらい前に名門オーディオメーカーがこういった"超"マルチドライバ構造のイヤーモニターを出した際、価格は20万円を優に超えていたと思う。
KZ ZAXはというと、
えぇ…
こうした市場を破壊しかねない製品は、ハイエンドオーディオは一通り経験したマニアによる道楽として楽しむのが良いのだと思う。特に私の様に然程オーディオに興味のない素人がこれほどまでにピーキーでトリッキーな製品に手を出してしまうと、一瞬で脳が犯される。ミドル〜ハイエンドのイヤホンを手にしても「5万円出してこの程度か〜」とかいう危険極まりない発想に陥りかねない。でも手を出しちゃうんだよな〜。
ギッチリ詰め込まれたドライバ達。断線してもケーブル(2pin)の交換が可能。
全体的な造りは綺麗で、プロ仕様っぽい見た目も相まって箱出しの段階で既に満足度は高い。イヤーピースだけ付け心地が悪いので、RHAの純正に交換した。
白日の井口さんもKZのAS06を付けているらしい。
視聴環境はiPhone XS(12 mini)にKZ ZAXを直刺し、音源はApple Music。普通でしょう。(手元のiFI nano DSDはバッテリーがヘタったのか、上手く起動しない状態)
※nano DSDは充電切れなだけでした。
音には素直にビックリした。複数ドライバ構成+リケーブル可能にしてきただけでも凄いのに、音も全く悪く無いどころか、イケまくっている。BA型のジャキジャキに尖った高音域は久しぶりなので耳が少し痛いけれど、そこらのTWSでは味わえない情報量の多さに「どんな音楽でも聴くのが楽しい」感覚になる。今も大好きな曲を連続再生し、音の洪水に溺れながら記事を書いているところ。
元気で喧しい音鳴りなので、トラック数が多い、エレクトリック、エッジィで、ワーッ!となる曲に感激するポイントが多い。例を出すなら、YOASOBIの"夜に駆ける"は、Aメロで右トラックから聴こえてくるギターのカッティングの歯切れの良さや、Bメロでの粒立つピアノに耳が奪われていく。ボーカルの描写力はそれほど感動を覚えるものではないため、次第にインストゥルメンタルな方向性にリスニング脳が切り替わってゆく。昨年のベストアルバムであるデリック・ホッジの"Color Of Noize"では、ツインドラムの質感が怖くなるほど明瞭に伝わってくる。ハイハット、スネア、タム、バスドラの位置が面白い様に分かる。シンバルは…めちゃくちゃ煩い。
ドンジャカしか楽曲は素晴らしい一方で、より緻密さを強調したシンフォニックな楽曲、たとえばNieR:Automataのサントラの様な音楽はファ〜ン!と来る感じが無いので、普段と感想は特に変わらず。ドッといこうよ、ドッと。(擬音でしか音を表現でけへんのか?)
箱には"どうか忘れないで、音楽を楽しむためにイヤホンがあることを"という金言が刻まれている。メーカーの方針としてはスペック主義感があるが…
せっかくだからiPhone直刺しではなく、デジタルで抜いた音源をアンプに通して聴いてみたい。FiiO辺りの安価なPHPAを試してみたくなるなぁ。こうして財布からお金を抜いていく、実に悪いヤツだなと思う。
同社が出している他の機種を見ても、ZSN ProはD型1基+BA型1基のハイブリッド構成ながら2,000円という馬鹿げた価格設定。上述した危険性はありながらも、軽い気持ちで注文してみても面白いかと思います。