365日をJ棟で

サラリーマンの諸々日記。買い物、音楽、日常。

Color Of Noize / Derrick Hodge (2020)とか他とか。

僕は熱心なビル・エヴァンスのリスナーでは無い。かの有名な"Portrait in Jazz"や"Waltz For Debby"もあんまり聴いていないし、サイドメンとしてもマイルスの諸作品でしか触れていない。ピアニストに関して言えば、グレン・ザレスキーやテイラー・エイグスティ等、近年のアーティストの方が聴く頻度が高い。

ただ、亡くなる寸前のラストアルバム"Concecration"は好んで聴く。

消えかけのロウソクに火炎放射器をパナしているかのように生き急いだ演奏、これがドチャンコ好き。酒と薬物で身体は完全に終わっているはずなのに、一つ一つの力強いパッセージが粒立ち良く耳に刺さってくる。勿論ミスタッチは一つも無い。

事後だから言えることだけど、自身の死を悟ったアーティストの演奏からは強烈な音が放たれている。

コルトレーンの生前最後の録音も、音質の悪さが相まって凄いことになっている。一度やると分かるんだけど、サックスという楽器は100%を超える出力で吹くと15秒ぐらいで頭がクラクラする。ジャズ研の合宿で深夜、同期とフリージャズやるで!言うて音楽的でない音を出す実験をしたことを思い出す。普通に疲れただけで、神には近づけなかった。そもそも無宗教だし。

後期のコルトレーンは神に近付く?対話する?ために持ちうる全ての力を振り絞ってブロウしていた(と思う)。突き抜けた情報量の音が耳を通り脳に届いた際の、処理オーバーとも言えるフワフワした恍惚は確かに超日常的で、宗教や哲学に特段の興味を持たない僕でもスピリチュアルな何かがあるのではないかと思ってしまう。その感覚は2017年にエリック・ハーランド(Voyager名義)の来日公演や、昨年のblack midiのデビュー盤"Schlagenheim"で味わった。

デリック・ホッジの最新作"Color Of Noize"のタイトルナンバーも、何度聴いても震え上がるものがある。カッコいい音楽は沢山あれど、聴きながら鳥肌が止まらない音楽はそうそう出逢えない。

ジャハリ・スタンプリー(20歳そこそこの次世代ピアニスト)が奏でるゴスペルなオルガンをバックに、マイク・ミッチェルとジャスティン・タイソンのツインドラムによる轟(豪)音が絶え間なく鳴る。音がデカすぎて、音数が多すぎて、もう1人が叩いているのか、2人が同時に叩いているのかも分からん。

またリーダーのデリック・ホッジはどの音を出せば聴き手が気持ち良いか、正解が分かっている全能的なプレイヤー兼プロデューサー。コモン、ロバート・グラスパー・エクスペリメント、R+R=NOWでの活動では無駄なく最低限ながら「これ以外ありえないっしょ!」と思わせるぐらい完璧に音のピースを嵌めてきた。"Color Of Noize"の7分に渡る音の洪水に飽きがこないのも、プロデューサー目線のデリックによるバンド全体の音量・音圧のコントロールが上手く効いているおかげかと思う。そして「もうこれ以上は上がれないのでは…!?」というところで更にアクセルが踏み込まれ、前述した恍惚に連れて行かれる。降参!

ゴスペルのセッション。狂っとる。

個人の意見に過ぎないけれど、ドラムに限るならスリル・スピード・スーパーテクニックの3Sで最も平均値の高いジャンルはDjent(ジェント)、ジャズ、そしてゴスペルの3強。いや、ゴスペルは頭ひとつ抜けていると言っても良い。幼い頃から教会で"地元の上手い兄ちゃん"の演奏を見て、その中で揉まれて育った彼らのロウソクの芯は異常なまでに太く長い。本作のマイク・ミッチェル、ジャスティン・タイソンも当然ゴスペルが背景にあるドラマー達。ガスバーナーばりに高火力な演奏でも平気なわけだ。"Color Of Noize"での無尽蔵のアイデア&テクニック&スタミナは、生まれるべくして生まれたのだなァ。

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CDも買っちゃった。

アルバムを通しては1曲目の"The Cost"とタイトルナンバーが激烈大爆弾ボンバーボンボン(偏差値3)だけど、他は甘くて聴き心地の良い曲が多いので、ぜひ手に取ってみてくださいナ。個人的な2020年のベストアルバムでした。昔はバカテクが好きだったけど、もうそういうのは気恥ずかしい時代だしなぁ…という人(=私)ほど良く刺さると思います。